アクセル・ワールド1

アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還 (電撃文庫)

アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還 (電撃文庫)

書評とかいう大それたものではない。感想とか、妄想。

ファーストインプレッション

 まさしく、始まりの第一話だな、と思った。


 今、僕が暮らす世界とは少し違った世界なので、世界観の説明が文中に必要となる。そのため、少々展開がとぎれとぎれになってしまった感がある。最初なので、致し方ないところ。二巻目以降にはそれがいくらか減る(説明があるとすれば、より濃い内容になるだろう)だろうから、期待している。


 展開が、バトルモノの王道を読んでいる感じ(現在「バクマン」を読んでいるので、そういう見方ができる)。そこに、ラノベ特有(?)の「女の扱いに慣れていない男視点での男女の微妙な言葉のかけあい、やりとり(?)」もあり、緊迫したバトル展開と合わせ、二度おいしい。が、全体として見れば、文章よりも、マンガで表現されたら良いなと感じた。アニメでも良い。

メディアミックス

 マンガなら、バトルシーンはより格好よく、刹那の心理描写も丁寧に表現できるのではないか。というより、そういうのをうまくマンガ化できれば、相当、良いものになる気がする。


 アニメなら、未来の世界観や、迫力のバトルシーン、現実と《加速》の世界の変化などを的確に表現できるのではないか。というより、(以下、同マンガ)。
 ただ、アニメ化の方が大分難しい。
 デジタルな世界観は、テレビ画面を人物の目線にしたり、ソーシャルカメラからの映像にしたりすることで、ぐっと感じられる気がする。世界観を考えると、おそらく、2D画ではなく、3Dっぽい方がいい……しかし、バトルシーンは2D画の方が圧倒的に迫力がでる気が、これまでのアニメ視聴経験からはする。ん〜……。


 電撃さまさまなので、人気がでれば、きっと両方とも、成し遂げてくれるだろうと思う。
 実現するならば、画のイメージが合うものを僕は選ぶだろう。両方は見ない気がする。画が合わなければ、小説でこのまま読もうかな。

イラスト

 イメージが合わなかった


 僕のイメージと、イラストレーターの画とが少し合わなかった気がする。文章から自分の中でキャラクターを描いてみたのだが、人物と校内アバターはともかく、《加速》世界でのアバターの画が、ちょっとイメージとは合わなかった。川上氏の解説でのイラストとも合わない。……そこまで自分の中に確固たるイメージはできていないのだが、何か違う。そこがちと残念。


 画では、ハルユキのアバターが150cmには到底思えないのです。


 イラスト原案は作者自身が伝えていると電撃オンラインの記事で目にしたので(特に仮想アバターの原案を著者がしたという……)、僕の感覚が合っていないということ。……こういう場合を考えると、画の少ない、文章で読み進めるのも良いかもしれない。ただ、マンガ化、アニメ化もしてもらいたいなとは思う。

ワールド

 世界観がよくできているなと思った。――《ニューロ・リンカー》を装着し、生活の半分は仮想ネットワークで行えるようになった――という、近未来的な世界。アニメで少し見た「潜脳調査RD」の世界観と似ている。……つまるところ、「潜脳調査RD」の元祖、僕は見たことないのだけど「甲殻機動隊」の世界観に似ているらしい(そんな書評をしていたブログをちらっと見かけた)。


 ――心臓の鼓動を増幅することで、意識と思考を1000倍に《加速》させる――という、おもしろい。途中、レベル9の技として、肉体をも100倍速《加速》させていたが、その描写説明が揺らぎなかった。冷静で、現実に受け入れられそうな表現説明。うまい。ただ、実際にレベル9の技がどういう原理で説明されるのか(されないのか)は、今後の楽しみ。

ストーリー

 最初にも書いたけど、バトルモノの王道を貫いていると思う。ゲームの存在理由知りたい。製作者と邂逅したい。そのために、何をしてでも、エンディングを、レベル10を目指す……熱い。一直線すぎる。だが、それがいい


 初っ端から、友情と、恋愛と、バトルシーンと、エンディングを目指す決意と……ドラマが凝縮されていて、ちょい詰めすぎな気もするが、それが良さでもある。二人の恋のやりとり、主人公の成長、格好良いバトルシーンを、期待して、次巻を待つ。

キャラクター

 いじめられっこでデブな主人公にしたことで、弱い心理というのか、ネガティブな心理が書かれる。そこから、黒雪姫との出会いを通じて、幼馴染と心を交わし、ゲーム内での《速さ》を自信として、成長していく。黒雪姫、チユリ、タクとのやりとり、それぞれに主人公のネガティブさが反映されていて、興味深い。著者あとがきにも書いてあったが、いつも最悪を想定してしまうという、その心が伝わる。そこから、どう変わっていくか、見守りたい。


 思考が中学生よりは、精神年齢高い気がする。けど、ゲームに熱中するところが、中学生らしいかも。友達関係について、あんなに熱くなれるのも、中学生らしい。高校生がモデルでは、こうもいかないだろう。キャラクターの設定は良いなと思う。


 弱気な主人公、幼馴染、友人、美人先輩(恋人)……六王……今後は《加速》世界での敵キャラにどれだけ魅力的なのがいるか、にかかってくるのかな。


 ただ、僕のラノベ読みが『狼と香辛料』→『涼宮ハルヒの憂鬱』→『半分の月がのぼる空』だからなのか、メインの女の子が皆、強引というか、強すぎ、ツンデレ(?)。黒雪姫もまた、そんな感じなので、流石に、ちょいと慣れてきてしまった。
 ただ、黒雪姫はこれまでになく、恋愛に素直なキャラ(嫉妬感がわかるし、告白もしてるし)なので、可愛いなと思う。


 今作合わせ、4作品とも、まさに、ちょい強な女と、ちょいと頼りない男とのやりとりが、面白い部分だと僕は思っている。飽きないために(?)、男女が出てくる小説は、ちょい上記とは違う関係のものを今後、適度に、合間合間に読もうかなと思う。

全体を通して

 先にインターネット上で作品を公開していたらしく、ネット上での評判は良かったらしい。僕も、それだけの作品ではあるなと思った。どこでも言われていることかもしれないが、完成度が高く、おもしろかった。


 バトルモノを文章で読んだのは初めてかもしれない。アニメーションやマンガ画がなくても、なかなかいけるものだなと思った。イメージしやすく、文章表現が的確なのだろうなと感じた。川原さん、すごい。あとがきから、編集担当の人も、バトルシーンに関しては良いアドバイスをされたのだと思う。僕とは合っていた。ありがとう。素晴らしい。


 巻末解説である川上氏の短編小説は、おもしろい。笑いがとまらない。あぁ実際に《加速》できたら、金稼ぎでも名誉作りでもなく、まっさきに、そういう使い方をしちゃいますか……わかるわかる、と感じてしまった(^^;


 ただ、今回はなによりも、解説最後にある川上氏の締めくくり文章が、僕の中で「まさしく、その通りだなぁ」と思った。びびっときた。なので、その一文を引用して、この書評も締めくくりにしたいなと思う。

 リンカーたちもフツーに登校する学生達で、
 しかし、戦いも何も自分達主導で開始する。


 しないときは日常、というのは、
 強制されない戦いに身を投じる、
 つまり読書やゲームに挑むのと同じですな。


 自ら必死になることを望む。
 そういう焦燥前提の趣味が一つ増えたこの世界は
 常に加速を欲していると思います。


 何を思うべきか、どうすべきか。


 自ら望む焦燥と必死が世界を動かすならば、
 王達の加速は望まれ結果が呼ばれていく。


 しかしそこに飛び込む少年がいます。


 これは、いつも必死な彼が加速する物語。
 いつもいつも必死で加速していく少年。
 必死な少年です。


 自分は、必死な人を支持したいと思います。
 貴方はどんなもんでしょうか。

 止む終えない事情で非日常に飛ばされてしまうのではなく、自ら非日常を選ぶ行為。「焦燥と必死」。


 娯楽ものは、目的達成後、エンディングを見たあと、どうなるのか? と考えてしまうときがある。……たぶん、これといって、どうにもならないのだろう。自らゲームをよくしていた身として、そう思う。ただ、それでも、そうはわかってはいても、今はその娯楽に熱中したい。エンディングがみたい。ただそれだけのために、ゲームを行う。


 エンディングのないゲームは、より高みを目指すのみ、極めるのみ。パズルゲームや、本書のハルユキが校内ローカルネットで行っていたスカッシュゲーム。極めることに終わりはない。


 RPGは、基本的にエンディングがある。一つの目的を目指す過程には、様々なドラマが生まれる。目的があると取捨選択が明確になる。捨てきれない取捨選択、「目的達成よりも大事なこと」を見つけられると、娯楽も、単なる娯楽として馬鹿にされない。


 エンディングに至ることで、そのゲームの目的は達成されてしまう。終わってしまう。そのとき、残るのは思い出。そこまでのドラマ。


 「現実逃避じゃねえか」。しかし、仮想で自信をもつことで、現実にフィードバックさせることはひとつの方法として、あり。フィードバックされなくたっていい。ただおもしろいものを消化したい。それもあり。


 どんな些細なことでもいい。何か自分が自信をもてるものを、ひとつでももてると、それを糧に、他のことも頑張れる気がする。多くの人にとっては、それがくだらないこと、評価をされないものだとしても。一部の仲間と、私自身が、それの価値を、意味を信じていけばいい。


 それが(つまらない)男のプライドってやつ。でも、結構大事。
 目的がない、楽しみがない、プライドがない……よりは、いくらかいい。そう思える。


 ライトノベルの多くは娯楽である。ただ、それをどう見るかも、一人一人の読者次第。

参考リンク

第15回電撃小説大賞・大賞を受賞した川原礫先生のインタビューをお届け!
2009年2月10日(火)
http://news.dengeki.com/elem/000/000/138/138537/